小畑健 スペシャルインタビュー
【第4回】デジタルと塗り…華やかな彩色の裏側

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漫画界屈指の作家となった今もなお、原稿において絶えず試行錯誤を重ねる小畑。この愚直なまでの執筆姿勢こそ、すさまじい画力の最大の秘訣であろう。
インタビュー第4回はデジタル作画とカラーの着彩に注目。そこから見えてくる小畑が求めるものとは――!?

デジタル作画を取り入れた『プラチナエンド』

――現在「ジャンプスクエア」にて連載中の『プラチナエンド』ではデジタルを導入されましたが、何か変わった部分はありますか?

小畑 そんなに変わっていないと思います。直しがしやすいくらいでしょうか? 背景の街並みも多いので写真を加工して使おう…くらいのもので、デジタルを使いこなせていないんです(笑)。もし時間や体力があれば自分の手で描きたいし、自分はアナログの画面の方がしっくりきます。あとはカラーの塗りの処理に使ったりとか。グラデーション部分とか、手塗りだとどうしても色の境目やムラが出るので、そこをデジタルで潰したりしています。元々塗りにムラがあるのが嫌いなので、それを直せるならデジタルを使いたいという感じでしょうか。

――アナログ・デジタルのどちらで作画するかは、よく耳にする話題ですよね。

小畑 見渡すとデジタルの表現がすごいことになっていて、どんな方法で描いているのかまったく分からなくて。自分の感性やイメージ力がついていけていないので、デジタルはまだ苦手です。とはいえ、漫画の表現に必要であれば取り入れていきたいと思っているのですが、ただ自分にとっては「描きたい」と思える衝動が重要で、その気持ちは自分の場合、手描きの方が強いと思っています。鉛筆やボールペンですごい絵を描くとか、そういう方がグッとくるんです。旧い車やバイクが好きなのも、使い慣れた道具をフルに使いこなしたい気持ちが強いからなのだと思います。

――『プラチナエンド』の今の手応えはいかがですか?

小畑 最初は題材に好きな物が多く「とにかく描きたい!」と意気込んでいて、欲求が強すぎてかなり構図に凝ったりしていましたね。でも描いていく内に原作の流れというか核というか、そういうものを掴んできて、徐々に落ち着いてきた感じがあります。自分の場合、どの作品も最初は色々試して、大体5~7巻辺りから掴んでくるんです。先の『バクマン。』の話で、「台詞が主役と気づき、絵がどんどんデフォルメされていった」などがそうです(※第2回参照)。そういう意味では『プラチナエンド』は、今バランスよく描けていると思います。

――これまで様々なジャンルを描かれてきましたが、到達点として目指すものはありますか?

小畑 うーん、何でしょうね? リアル路線が好きとはいえ、完全に写真のような絵にしたいわけでもなく。「何かすごいものが描きたい!」という意識はあるのですが…「すごい絵」というものが何なのかも分からないし、何を描いても納得できない自分がいる気もします(笑)。逆に自分が最後まで納得できて描けたものが、目指していた「すごい絵」になるのかも、と思っています。

「描きたい絵」と「あるべき絵」の葛藤

――単行本のカバーや扉など、カラー絵のアイデアは常に準備されていますか?

小畑 いえ、ストックできるほどアイデアがないので、その時に思いついたものを描くしかないです。なのでたとえば『プラチナエンド』の単行本カバーは、シンプルに人物1体だけでいこうと始めたのですが、続いていくともっと詰め込みたいというか、細かいものをいっぱい描き込む癖が出てくるんです。結局、『プラチナエンド』のカバーも小物が増えて、ごちゃごちゃと描き込んだ絵になってしまっています(笑)。

――色々な情報が詰まった方が描きやすく、理想なのでしょうか?

小畑 理想というわけではないんです。作品それぞれにコンセプトがあって「この方が作品にとってはいい」と頭で分かっていても、「でも、自分はこう描きたい」という気持ちが出てきて、その狭間で戦っている感じです。『プラチナエンド』は最初、カバーの絵は主人公も描かず、天使だけの真っ白な本にしたかった。…まぁ、漫画としては駄目かも知れないですね(笑)。それにそれを貫けたとしても、逆に不安になって「やっぱりこのままでは駄目だ」という声が聞こえてくるんですよ。

――それはもうひとつの小畑先生の気持ちでしょうか?

小畑 「白で描きたい」という自分と、「漫画としてそれでは不安」という自分は最初からいるんです。そして時間が経つにつれて、いつも不安の声の方が強くなっていく。「白で描きたい」は純粋な自分で、絵を描く原動力です。でも読者のことを考えると「このままでは駄目だ」となってしまうんですよ。漫画だと特に、最初の自分を貫くのは難しいですね。自分が満足するものよりも読者に求められるものの方が絶対いいので(笑)。