小畑健 スペシャルインタビュー
【第5回】NEVER COMPLETE―画業30年で至った境地

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「描きたい絵」「あるべき絵」の狭間で葛藤しつつ、小畑はまだ見ぬ「すごい絵」を求めて筆を執り続けている―。
インタビュー最終回となる第5回では改めて画業30周年を振り返りつつ、小畑の次なる境地への鍵「NEVER COMPLETE」に迫る!

この30年間を振り返って

――今回、画業30周年を迎えていかがですか?

小畑 上手くいかなくて当たり前と覚悟して飛び込んだ世界だったので、こんなに続くとは思いませんでした。だから原画展まで開催してもらえる今の状況が不思議ですね。

――漫画家を続けてきて、特に楽しかったことはありますか?

小畑 …ない…というか…いつも何かに追われていた感じです(笑)。そうですね…何かすごい絵を描くことができたら、その時は楽しく思えるかも。「いつか突然、自分でも驚くものが描けるといいなぁ」と期待しながらいつも描いてるんですが(笑)。手応えの大きかった『ヒカルの碁』『DEATH NOTE』も、「満足」というよりは「充実」という感じです。描いている最中は「このままずっと描いていたい!」と感じていました。そういった充実感が重要なんです。気持ちが乗っているかどうかでしょうね。

――この30年を通して、ご自身の技量が上がった実感はありますか?

小畑 全然ありません。原画展の準備で昔の原稿を見ているのですが、「変わっていないな…」と。技術面というより、絵の描き方が変わっていないというか。子供の頃の絵を見ても「今、同じ題材で描いたら、同じ感じに描きがちだろうな」と感じますね。ただ、「手はこう描けばいいのでは」とか、何かの「気づき」はたまにあります。気持ちが乗っていた『ヒカルの碁』『DEATH NOTE』の頃は特に多かった気がしますね。

――絵に関して、今、どういう点に興味がありますか?

小畑 自分が好きなものを探りたいですね。好みの線とかベタとか、そういった自分の中にある嗜好を知りたい。どこか満たされていなくて、それを解消するために自分を掘り下げたいのでしょうか。

――これまでのお話で、数々の葛藤も口にされていましたね。

小畑 自分にとっての悩みは、実は「漫画」にはそれほど必要のないことばかりです(笑)。もっと細かく描きたい、左右対称にしたい、形を整えたい…とか。原稿では割り切って漫画として描いていますが、どうしてもその気持ちが出てきてしまう。これは自分の根っこにあって、ずっと付き合っていくものでしょうね。本当に何とかするのであれば、漫画ではなく、自分が好きな一枚絵をひたすら描くしかないんだと思います。あとは…そうですね、漫画家以外でいうと、絵画の修復士に憧れがあります。

――修復士ですか!?

小畑 修復士の仕事って、ボロボロの絵をどこまで完全な姿に近づけるかという、100点を作るのではなく、いかに100点に迫るかという感じですよね。目標の絵があって正解を目指すという…勝手なイメージで申し訳ないですけど、そんな仕事をすることができたら、自分の気が済むのではないかと思うんです。うん、「気が済む」…この感じが、「目標」とか「満足」とか「理想」ではなく、自分が求めているものとしてしっくりきますね(笑)。

――今後、小畑先生が目指すもののイメージはありますか?

小畑 どんなものか分からないですが、さっきの言葉を受けて一言で言うと「自分の気が済むもの」でしょうね。漫画はバランスが重要なので、描きたいもの、読者が求めるもの、原作との整合性…と、作品として全部のバランスが取れていることで気が済むんです。でも小さい頃から一枚絵を描いて気が済んだことはない気がします。思うように描けないという気持ちはずっと抱えていて、でもそれを抱えたまま描き続ければ、いつか「すごい絵」に辿りつけるかも知れないと思っています。